Drawnir3
陽炎揺れる食糧へと続く道。一人は歩き、一人は浮いて進んでいた。
すると、前から何かを持った女の子が、こちらに向かって走ってきた。
「あ!朱音お姉ちゃん、おはよー!」
「あ、歩美ちゃん、おはよー。それ、アサガオ?」
「うん!ツボミが出来たからもう少しで咲くんだ!」
「へぇ〜、あ、宿題だよね、それ。」
その問いに、彼女は満面の笑みでうなずいた。
「……なんでこのガキ嬉しそうな顔してんだ?」
「……あんたは黙ってなさい。」
「冷たいねぇ。」
「うっさい。」
ぼそぼそとあらぬ方を向いて話していたあたしに、小さいながらも不思議に思った歩美ちゃんが、
「……お姉ちゃん、だれとお話してるの?」
なんて聞いてきたので、取り乱してしまった。
「ううん!な、なんでもないの!気にしないで。あはは!」
「ふーん。あ、もう行くね!バイバーイ!」
そう言って駆けていった。ふー……危なかった。
「……ハール?なんでアンスールかけてないのよ。」
「かっかっかっ!忘れてたなぁ!って、なにげに覚えてんだな、お前。」
たしかに、自分でも不思議に思った。まるで、つい最近までルーンを使っていたみたいな感覚がした。
なぜ?
「……ふん、才能があるのは当たり前だよな。」
「なんで?」
「それはいつか、泉の妖精さんに聞いてみな。」
「妖精!?」
まさかハールがこんなことを言うとは……。ま、頭イってるのは分かりきったことだけどね。
あ、そんなことより朝ご飯買いに行かなきゃ。なに食べようかな、サンドウィッチ?……は一昨日食べた。
蒸し暑い真夏の真昼。こんな日はクーラーをかけてのんびりお昼寝。だってあたし学校行ってないもん。だから年中夏休み、今は真っ最中か。……あ〜あ、開き直っちゃった。
「そういうことで、おやすみ。」
「どういうことでおやすみ。なんだよ!」
「ぐ〜。」
はえぇ、もう寝てやがる……。しかたがない、叩き起こしてでも……。
「……清らかなる龍の如き流るる水よ、この者の上に激流となりて降り注げ、ルーン、ラーグ、我が名、ハールバルズにおいてお前を使う!」
再び例の金属版、今は青空は反射させ、アクアマリンの様な色と化している。そこから浮かび上がる文字。それは瞬時に朱音の上に移動した。そして渦を巻き、水を纏い始める。
「俺、ルーンしか攻撃手段ないからな。勘弁してくれよな。」
水は球体となり、宙に浮いていたが、突如形を崩し、朱音の上に落ちてきた。
「……ゴホッ、ゴホッ!な、なにー!?」
ずぶぬれになり、飛び起きた。それでも文句は忘れない。
「……この者のに散らばりし水龍の鱗よ、あるべき所に帰れ。ルーン、ラーグ、我が名、ハールバルズにおいてお前を使う。」
たちまち、朱音にかかった水は空気中に飛散していった。
「なに?今度は水を操るルーン?」
座った目をして、頭を掻きながら諦め半分で言った。
「ご名答!今のはラーグっつーんだ。」
「ふーん……。おやすみ〜。」
どさっとベットに倒れこむ。全て面倒臭い、と言いたげな姿。
「だから寝るなって!とっとと契約の儀式するぞ!」
「あーもー、うっさい!あたしはなりたくないの!」
梃子でも動かんか。なら奥の手だ。
「朱音。」
「なによ!」
「そう怖い顔すんなって。――さっきのお前の万引き事件の話だが、あれ、ルーンがらみだぜ。」
「え?……うそよ、口からでまかせばかり。」
「神の目を疑うのか?」
「だって胡散臭いじゃない!……それで、それで何を信じればいいのよ!」
動揺からか朱音は泣きそうな顔で崩れ落ちた。
ルーンによってあたしの人生は狂わされたっていうの!?
「犯人探しができるぜ?……そして、裁くことも。」
「そう……だったら、やってやろうじゃないの、ルーン使い!見つけて、破滅まで追い込んでやる。」
決意の顔。これが復讐という名のドラマの始まり。
「――で、なにをすればいいの?」
「そうだな、まず木の板用意してくれ。」
あったっけ?そんなもん……あ、机ん中にあったな、そういやー。
「あった、あった。はい、何に使うの?」
「ん?あぁ、ルーンでお前の名前を刻んでもらう。安心しろ、教えてやるから。」
「そう。」
「でも、ただ刻んでもだめだ。専用ナイフドゥローニルがいる。」
そういって、ハールは腕輪を取り出した。そこには七つの文字が刻まれていた。
「……失われた詞を刻みし小刀よ、その、欠けることなき魔銀(ミスリル)の輝きをここに現せ!ルーン、ドゥローニル、契約者、ハールバルズにおいてお前をここへ呼ぶ!」
腕輪が水銀の如く溶けだし、形を変えて行く。
なんかあったな、こんな映画。ター○ネーターだったけ?
「……よし、出来た。ほら。」
ハールがドゥローニルを渡す。でも、朱音は受け取らない。
「……霊体のあんたが持ってるもんに、あたしが触れるわけ?」
めちゃめちゃ疑問。
「あ?あー大丈夫だ。これは神器だけどな、人間でも触れられるようになっている。」
あ、大丈夫なんだ。
後は、教えてもらった文字で名前を刻みこんだ。慣れないことなので、てこずった。途中何度も手を切りかけ、危うく某ネコ型ロボットの手になるところだった。
「出来た!」
「よし、そしたら次は、名前の下に“ペオース”を刻め。」
ハールは“ここ刻め。”と、刻むべき所にその文字の形をなぞった。
「……で、刻んだらナイフつき立てろ。」
言われた通りやってみたら、思いの外力を入れすぎたらしく、板をナイフが貫通した。切味が凄いのと、特殊金属で、硬度が半端じゃないと言うのが原因だったと、後で聞かされた。
「うわぁ……、大丈夫?これ。」
「少々大丈夫だ。……と思う。」
「お、思うって!?」
「まぁ、いいとして、呪文がいる。よく聞いとけよ。
……失われた詞よ、我、朱音はそれを継ぐ、北欧の最高神となりて。我は誓う、我の中に眠る闇を捧ぐこと。それを力の糧とし、お前達を使う者となる。捧たまえ、お前達の力。ルーン、ペオース、契約者朱音により、お前を使う。」
「な、長い……。もう一回!」
暫し、呆然。覚えきれるかしら……。
「いくぞ……失われた詞を、我、朱音はそれを継ぐ――。」
トライすること4回、無理だった。ここはハールに妥協してもらって紙に書いて読みあげることになった。そして――。
「失われた詞よ、我、朱音はそれを継ぐ、北欧の最高神となりて。我は誓う、我の中に眠る闇を捧ぐこと。それを力の糧とし、お前達を使う者となる。捧たまえ、お前達の力。ルーン、ペオース、契約者朱音により、お前を使う。」
5回目にしてようやく成功。長かったなぁ。
安堵している場合じゃなかった。
なぜなら、刻んだ文字が、自分の目の中に飛込んできたからだ。痛みが走る左目を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
同時に、さっき言った自分の言葉が頭に刻め込まれたような気がした。
「終りだ。これで今日をもってお前はルーン使い、いや――神になった。」
神?どうでもいい。あたしの目的はあくまでも――復讐。
ただそれだけ。
蒸し暑い夏の午後のことだった。
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