Drawnir4

 

 

とある少女の視界。そこに映るは病弱そうに見える華奢な少年。そして、少年が口を開く。
 
「ごめんな、こんな体しか用意出来なくて。」
 
すすり泣く少年に少女は優しく言った。
 
「いいのですよ。そんなことより、お久しぶりです。
――お父様。」
 
 
 あれから一週間が過ぎたころ、朱音は過労と暑さでダウンしていた。ここのところ、徹夜でルーンを叩き込まれていたためだ。
 
「おい、大丈夫かよ。」
 
問かけても反応なし。そして、ぴくりとも動く気配もない。
 
「あ〜、重症か。無理させ過ぎたなぁ。」
 
ポリポリ頭を掻きつつ独り言。
 
……分かってんなら、静かに、して、なさいよ……。」
 
「うお!生きてたのかよ!?」
 
「あぁー、うっさいな。」
 
渋々起きた。起きないとコイツはうるさい。
 
「んあ?もう勉強再会か?いやー、熱心でよろしい!」
 
そして、高笑い。あー本当にうるさい。頭に響く
……
 
……一ついい?一週間前からの疑問。」
 
「なんだ?」
 
「なんでルーンが英単語なのよ。」
 
「そりゃぁ、学者が解明出来てないんだぜ?」
 
「アンタ、神じゃないの!?」
 
そう、ダウンの原因はこれ。あたしの苦手な英単語がルーンを操るのに必要だったことだ。
そう、一週間前に遡る。
 
――よし、手始めにルーン単体からやるか。」
 
文字自体を覚えることは簡単だった。ただ、呪文(文字から力を引き出すもの)が、なん十種とあるので、4日かかった。てか、まだ覚えきれてないのが事実。 
――よし、じゃあ、雹を降らしてみろ。いいか、心で描くんだ。」
 
「えーと、天に止まりし氷塊よ、地に降りて破壊をもたらせ。ルーン、ハガル、契約者朱音。この名においてお前を使う。」
 
部屋の中で使ったのが不味かった。これ雹だったよ。 
「痛い!痛い!痛い!」
 
「あだだだだだ!」
 
とまぁ、こんな具合いで4日が過ぎた。てか、ハールに雹が当たった事に驚きだった。どうやらルーンは効くようだ。ふっふっふ。
そして、今の今まで英単語漬けだったと言うわけ。
これにも呪文があるので、勘弁してくれの状態。
 
――ねぇ、気晴らしに外行かない?」
 
「暑いだけじゃねぇか?」 
「部屋に篭ってるよりかましよ。」
 
「ふーん。」
 
とまぁ、無理矢理な理由をつけて外にでたが、行く当てなどない。外には、大空とそれを覆う入道雲があるばかり。
 
「で、どこ行くんだ。」
 
ぎくっ。
 
「いや〜、それは
……。」 
どうしよう
……
 
「朱音お姉ちゃーん!」
 
聞き覚えのある少女の声。またアサガオを抱えて走ってくる。
 
「歩美ちゃん?どうしたの?」
 
表情は泣きそうな顔。なにがあったのかな?
 
「アサガオが、アサガオが咲かないの。」
 
え、たしか一週間前にツボミだったはず。明らかに咲いてないとおかしい。
なにが原因だろうか?
 
「ちょっと、歩美ちゃん、アサガオ見せてくれる?」 
葉っぱを裏返したりと色々調べてみて明らかになった原因。
葉っぱに刻まれた縦線。それには、見覚えがあった。 
ルーン、イス、それが正体だと思う。正しければ、意味は
……停止。
 
……我周りの空間における言葉を制限せよ。ルーン、アンスール、契約者朱音、この名においてお前を使う。」
 
あの金属版リターンズ。
 
「なんだ?アンスールなんかかけて。」
 
変なところがないか調べるふりをしてハールに話し掛けた。
 
「会話が漏れたらマズイでしょ。ルーンがらみっぽいのよ、これ。」
 
ほらほら、と葉っぱの裏をハールに見せてやった。
 
「ほう、イスじゃねーか。どこの暇人だ?こんな事したのは。」
 
「さぁ、って、ほかにもルーン使いっているの!?」 
「いやー、こっちには来てないはずだぜ?」
 
「てことは、いるのね。」 
もしかしたら、コイツを使ったのがあたしをこんな目にあわせた犯人?
 
「ハール、ルーンを消すルーンってあるの?」
 
「もちろんあるぜ。ただ、厄介でな、特殊な儀式がいる。」
 
「またぁ!?」
 
めちゃめちゃいやそうな顔をして朱音がいう。
しゃーねぇじゃんか。
 
「つーかなぁ、自分に刻む必要があるんだよ、こんな風に。」
 
そう言って、現れた当初からローブの袖に隠れていた腕を出した。
がっちりとした腕には紅玉を埋め込んだ様な傷があった。
その傷はよくみれば、ルーンだった。文字は全て連なっているが、ダエグ、エオー、ラーグの三文字であることがみてとれた。
 
……ハール、どうやるの、それ。」
 
「俺が途中までやって、お前は誓いをたてるだけだ。
……いいのか?こんなんになるぞ。」
 
「うん。
……復讐のため、だから。」
 
「そうか、わかった。やってやる。」
 
「ありがと。
……歩美ちゃん、よく分からないから、調べてくるね。また明日、そうね、近所の公園で教えてあげるから。」
 
すっかり彼女を無視していた。気を悪くしたかな。
しかし、うん、と頷き、にっこり笑ってバイバーイと言って、彼女は帰っていった。
 
「じゃ、帰ろっか。」
 
「ん、気がすんだか。」
 
ハールとそんな会話を交し、少したってからだった。気がきじゃない様子で、男性がなにかを探していた。 
「あのー、どうされましたか?」
 
「あ、あぁ、娘をさがしているんだ。歩美というんだが
……。」
 
「歩美
……。その子、アサガオ持ってませんでしたか?」
 
「あぁ、そういえば最近、アサガオ、アサガオと。娘を知ってるのか!?」
 
「え、ええ。ついさっきまで、ここで歩美ちゃんと話しをしていましたけど
……。何かあったんですか?」 
「娘が、昨日から行方不明なんだ。妻も死んで、もし、娘もそんなことになったら、私はどうしたらいいんだ
……。」
 
そういって、顔を掌で覆った。
親父の哀愁
……
はっ!いけない、こんな事思ったら。
 
……あのー、歩美ちゃんと明日会うんですが……、おそらく今日は帰ってくると思いますよ。帰ってこないようでしたら、昼に公園にいらしてください。」
 
「本当か!それは!?」  
いや、肩つかまないで。ぎゃー!揺らさないで、頭に響くー。
 
「ほ、本当で、す。すみません、ゆ、揺さぶらないで、下さ
……。」
 
「あぁ!すまない。貴重な情報をありがとう。では、私は失礼するよ。」
 
少し気が晴れたのか、父親は軽い足取りで帰っていった。 
 
 そして、その日の夕方。 
――じゃあ、お願い。」 
そういって、右腕をつき出し、ハールにドゥローニルを預けた。
あとには引けない。これがあたしの戒め。
 
「わかった。寝て覚めたら誓いをたてるだけだ。じゃあ、良い眠りを
……。あ、そうだ、これ腕につけろ。ドラウプニルっつー腕輪だ。この上からじゃねーと、俺、腕押さえられないからな。」
 
思わず、腕輪に魅いってしまった。金をそのまま削り出した様な雑な作りだが、そこに何故か美しさを感じた。
そんな事を思っていたら、ハールに預けたドゥローニルの柄で軽く殴られた。 ぼーっとするな。ということらしい。慌ててあたしは頷き、腕輪をはめた。
 
「いいな、よし。
……絶氷の姫君よ、この者に安らかなる氷の時を与えたまえ。ルーン、イス、我が名、ハールバルズにおいてお前を使う。」
 
そこで、意識が一回途切れ、深い、深い闇へと落ちていった。
 
次に光を見たときには、腕にあの傷。どういう原理で血がこうなるんだろう?ま、いいや、そんなこと。 
「お、目ぇ覚ましたか。」 
「うん、不思議なものね。痛みが全くないなんて。」 
紅き月のように煌めく自分の戒めを思いにふけながら見つめていた。
不意に頭をよぎる言葉。
勝手に口がそれを紡ぐ。
 
……万物に刻まれし、呪いの文字どもよ、我が腕の真紅の傷に平伏すがよい。この文字は消滅。お前達が歩むべき道もまた、消滅。我は誓う。その絶対なる力を我がものにし、服従させる者になることを。ルーン、デリート、契約者朱音、この名において、お前を使う。」
 
ハールが驚愕の表情で、こちらをみている。そして、 
「お、お前
……。なんで、契約の言葉を。しかも、一字一句間違えずに……。」 
「さぁ?勝手に出てきた。ただそれだけ。それより、この腕輪ちょーだい。あの時の慰謝料で。」
 
屈託の無い笑顔で。
 
「あー
……。別に構わねぇよ。九日ごとに同じもんが八つ出来っから。」
 
「なにそれ!?質量保存の法則は!いや、そんなことよりぼろもうけじゃん!」 
かねのもーじゃ。
ただただ、その言葉につきるが、反応が出来ない。
驚愕したこともあるが、実はその笑顔にみとれてこともあったり。
 
 
 一人、睡眠というものを知らない男が、今宵も紅く細い三日月を見つめ呟く。 
……あいつは、今まで会って来た奴らとは比べもんになんねぇな。……フッ、良かったぜ、あいつの目玉をえぐらずにすんでよ。」 
独り言かとおもいきや、突然。
 
……なぁ、盗み聞きとは趣味わりぃんじゃねぇか?――ロキ。」
 
「あはは、ばれてたか。ボクも腕おちたねぇ。そんなことより、お久しぶり、最高神
でも、ボク忙しいから。またね。……気を付けなよ、その娘に。」
 
にっと不気味な笑いをのこし、ロキは背中から、黒い烏のような羽を出して飛んでいった。
これも、ルーンの恩恵だとか。


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